死亡事故の損害賠償金額の計算方法
死亡事故の損害賠償請求権者と損害項目
交通事故によって被害者が死亡した場合,死亡した被害者本人の損害については,被害者の遺族等が損害賠償請求権を行使することになります。
死亡事故の損害は,死亡による逸失利益,死亡慰謝料,葬儀関係費用です。
死亡による逸失利益
1 死亡事故における逸失利益とは
事故における逸失利益とは,被害者が死亡したために,将来,得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害のことです。
2 死亡事故における逸失利益の計算方法
被害者が死亡しなければ就労したであろう期間における収入から,生活費相当額と中間利息相当額を控除します。
具体的な計算式は,「逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」です。
死亡によって収入を失う一方で,被害者が生きていたならば支出したはずの生活費が発生しないこととなります。
そこで,被害者の収入から,被害者自身が要したであろう生活費相当額が控除されます。
本来なら将来にわたって長期間かけて取得するはずであった収入等の利益を,現時点で一括し受け取ることになります。
死亡しなければ得られることのない利息を取得してしまう不都合を避けるため,現在から将来の間に発生するはずの利息相当額が控除されます。
3 基礎収入額
⑴ 給与所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の収入額です。
⑵ 自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の所得額です。
所得額は,事故の前年度の所得税確定申告書や課税証明書等,客観的な資料によって定められます。
⑶ 主婦等,家事従事者の基礎収入額は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。
⑷ 学生の基礎収入額は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。
高校生であっても,大学進学が予定されていた等の場合,大卒の賃金センサスを採用されることがあります。
⑸ 失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,収入がないため,原則として逸失利益が認められません。
もっとも,事故当時,労働能力と労働意欲があって,就労の蓋然性が認められる場合は,それまでの職歴や収入等を考慮しつつ,賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入額を定めることもあります。
4 生活費控除率
生活費控除率は,特定の被害者ごとに確定するわけではなく,裁判実務においては,次の基準が用いられることが一般的です。
⑴ 一家の支柱(被扶養者1人):40%
⑵ 一家の支柱(被扶養者2人以上):30%
⑶ 男性(独身・幼児を含む):50%
⑷ 女性(主婦・独身・幼児等を含む):30%
5 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
就労可能年数は,原則として死亡時から67歳までの期間と考えられています。
就労可能期間における中間利息相当額を計算することは煩雑ですから,複雑な計算を簡単にするために,実務では,通常,ライプニッツ係数が用いられます。